【コラム】話題先行で売れる本に関してはいつもジレンマがある/我楽多見聞録 vol.02

「書物というのはポケットに入れて持ち歩ける庭のようなものである」。そんな格言もあるように、読む人間によって価値がゼロにもヒャクにもなるのが本のいいところ。文苑堂スタッフの推し本コラム。(ササキアイ)





KAGEROU/齋藤智裕


俳優・水嶋ヒロ ポプラ社小説大賞受賞。2010年、年の瀬にえらいものがふってきた。連日の報道で話題性は十分。内容がわからないまま売れることがもうすでに約束されたような1冊だった。個人的に話題先行で売れる本に関してはいつもジレンマがある。

【売れればいいのか】

本屋としてそのスタンスは本当に正しいのか。もちろんお客様が何を買うかは自由で、何をおもしろいと感じるかもその人の感性だ。それでも話題先行の本にどう関わっていくのがよいのか、答えはまだみつからない。だから今回は読む前につい願ってしまった。

「勝て、水嶋ヒロ」

読んでもいないのにおもしろくないと騒ぐ人。色眼鏡をかけたまま読んでしまった人。本当はこの本の中身なんて興味ないのに騒ぐマスコミ。この全てに勝って、小説を書いてまで伝えたかったことを、今後も伝えたいことを好きなように伝えていって欲しい。

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もちろん新人さんなのでまだまだ「うまい!」という点は少なく、伏線回収も不十分と感じる。【伝えたかったこと】がちゃんと伝わるような話であったか、その工夫はされていたか、という点においても物足りない。

しかし設定はよかったので、次回もっと掘り下げて、短編集でも出してくれたらなあ、と一人の読書家としてお願いしたい。最後に初版には誤植部にシールが貼られているが、あまりにもうまい誤植なのだ。この誤植も含めて、「KAGEROU」おもしろかったです。



KAGEROU
著者:齋藤智裕
出版元:ポプラ社


ササキアイ/株式会社文苑堂社員。現在は企画担当。婚活パーティーなども開催している。


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